土地の​低い​東側に​向けて​大きな​開口と​縁側を​設けたことで、隣家と視線も重ならず、自然と意識が外へと向かうようになっています。

障子に畳、縁側など昔ながらの日本家屋を思い起こさせるようなリビングダイニング。東側に大きく開かれた窓からは朝日が伸びやかに差し込んできます。太陽の動きや季節の風が家の中へと引き込まれてゆく。あたたかく清潔な空気に包まれた空間です。

木部はすべて『ワトコオイル』で塗装されており、こちらはなんと全て旦那さんが施主施工で仕上げたもの。家全体に手をかけた分、愛着もひとしお。

リビングに連なるのが、4畳ほどの和室スペース。障子を​開けると​外の​縁側と​繋がり、​光と​風が​ゆったりと​差し込んでくる。​畳に​腰掛け、​い草の​香り、​四季の​香りを感じながら、心落ち着く​時間が​過ごせそう​です。

天井は2階の床と兼ねて杉板1枚とすることで、材料や工事を減らしながら開放感を確保しています。

現代に溶け込む​日本家屋の姿を見る

直線的な​要素が​多い​和の空間の​中で、​丸い​化粧柱が​空間に​柔らかさを​添えてくれています。

畳スペースの一角には小さな床の間もあります。かつての床面が一段高く、掛け軸が飾られたような床の間とは異なり、床材を切り替えて作り出されたフラットなスペース。

作り込みすぎると敷居が高く感じてしまう床の間も、現代の暮らしや空間に合わせて使いやすい形にすることで、家の中に、季節のしつらえを気軽に楽しめる余白が生まれます。

昔ながらの押入れもこの家では軽やかに空間に馴染んでいます。たっぷり収納ができる形状はそのままに、少しだけ宙に浮かせることで、空間の広がりを確保しつつ圧迫感も感じさせません。

リビングの一角には地窓もあります。なんと、地窓を​塞ぐ​板戸​は、​折り​畳んで​持ち手を​天板の​切り​欠きに​噛み合わせる​ことで、​テレビ台と​一体​造作のように​収納できるようになっています。

日本建築に​見られる、​使う​ときだけ​機能が​現れ、​不要な​ときには空間や​家具の​一部と​して​自然と馴染む。そんな使い方を切り替えられる柔軟さから着想を得て​考案した​ものだそう。

こうした細やかなつくり込みが、空間の質をぐっと引き上げているように感じます。

家族のための間取り

料理好きのご夫婦のために、家の中心にキッチンダイニングをレイアウト。自然と人が集まり、料理をきっかけに会話が広がるだけでなく、どこにいても家族の気配が感じられる、家の軸となるような場所が生まれていました。

キッチンはシステムキッチンのまわりを杉のカウンターやラワンの腰壁で囲いました。素材感の異なる設備機器の周りに木の要素をプラスすることで空間全体とも溶け込んでいます。

玄関を上がってすぐの場所には、小さな洗面スペースを設けています。学校や遊びから帰ってきた子どもたちがすぐに手を洗えたり、後ほどご紹介する2階のメイン洗面の混雑をやわらげてくれたりと、日々のちょっとした使いにくさを解消してくれます。

ここには『陶器の手洗い器 丸350 マットホワイト』と『壁付けセパレート混合水栓 ​洗面用 サテン L178』を採用していただきました。手洗い器は一般的な洗面器よりも小ぶりなサイズ感で、ラウンドした形状も相まってコンパクトな空間にもスッキリ納まります。サテンの水栓は控えめな光沢で、杉やラワンといった木の落ち着いた雰囲気にもすっと馴染んでいます。

光と視線で空間を繋ぐ

2階の床の一部はすのこ状になっており、2階の大きな窓からの光が部屋全体に広がります。

この住まいには、光がたっぷりと差し込む大きな吹き抜けがあります。光や視線が上下に抜けることで、1階と2階がゆるやかにつながり、空間全体に一体感が生まれています。

柵はロープが巻きつけられたようなデザインに。一部異なる素材が入り込むことで空間のアクセントになっています。

2階へ上がると、ホールには広々とした洗面スペースがあります。ミラー越しの大きな窓からはたっぷりと光が差し込む、開放的な空間です。

東向きの窓から差し込む朝日を全身に受けながら、身だしなみを整える。ぼんやりとした頭もすっとほどけて、気持ちよく一日をスタートできそうです。

タオル掛けには『溶融亜鉛メッキの把手』を使用。ラフで表情のある質感が木によく似合います。

そして何より印象的なのが、宙に浮いているようなミラー。中央ではなく、少し右に寄せた位置で1本のパイプに支えられているプロポーションが絶妙な違和感を生み、自然と視線を引き寄せます。

焼杉で仕上げられた外壁が、全体に凛とした空気感をまとわせています。

外観は、日本家屋と現代的なメーカー住宅の要素がバランスよく取り入れられた、2階建てに切妻屋根というシンプルな佇まい。昔ながらの日本家屋のような趣を感じさせながらも、どこか親しみやすい雰囲気も漂います。

軽やかに受け継ぐ、日本の住まいらしさ

昔ながらの​日本家屋には、​光や​風を​取り込みながら​暮ら​すための​知恵や、​空間を​柔らかく​使う​ための​工夫が​たくさん​詰まっています。​

そうした​要素を​取り​入れながらも、​どこか​軽やかで、​現代の​暮らしと​ちょうど​いい​距離感を​保っている​この​住まい。​障子や​地窓、​縁側と​いった​日本建築の​エッセンスが、​懐かしさと​してだけでなく、​暮らしていく​中で​自然と​機能しているのが​印象的でした。

素朴で​簡素だけれど、​どこか​豊か。​
「日本の​住まいらしさ」を、​今の​暮らしの​中であらためて​考えさせてくれる​事例の​ご紹介でした。

(撮影:Benjamin Hosking)

一色暁生建築設計事務所

一色暁生建築設計事務所

兵庫県の海のそばに佇む設計事務所です。

毎日新しい発見があり、日々昨日とは違うストーリーが生まれては消えてゆく建築。土地の持つ空気、施主の心理を丹念に読みとり、その人にとっての楽園となるような建築をつくりたい。そんな思いで設計をしています。

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テキスト:しもむら

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